2011年12月26日月曜日

ユーロ一考 Part 3

 常々、新聞や海外メディアを見ているとEUやユーロに関しての話題が尽きませんね。メルケル首相ががんばっているようなので、僕も頑張りたいと思います。

して、前回はユーロの慨論について説明させていただきましたが、次はギリシャ危機に関する内容です。以下はなすべきことは、ギリシャ危機はなぜ起こったのかということとそれにユーロは関係したのかの2点です。

最初のギリシャ危機の原因から。これに関しては、多くの報道でなされているとおりギリシャ政府の怠慢です。ギリシャでは、国民の1/4が公務員であったり(票を獲得するために失業者を公務員にするというあまりに近視眼的な政策の結果です)、また定時出社ボーナスに象徴されうる行政コストの無駄がありました。世界各国に共通に見られる現象ですが、遅れたグローバル化への対応です。製造業をはじめとして、ギリシャ経済を支える産業が育っていませんでした。

なぜこのような事態になったのか。このブログの読者であるならば、もうご存じですよね。現世代の人々は、未来世代のことを考えずに、無駄な公共事業で景気良くしようとしたり、社会保障を充実させようとしたりして、向う見ずな財政赤字になってしまう傾向にあります。

*一つレトリックを紹介しましょう。上記のような事態を許容あるいは加速させる政治家のことをPoliticianと呼ぶ一方で、将来のことを考え公正に国益を追求する政治家のことをStatesmanと呼んだりします。さて、日本にstatesmanはいるのでしょうか。あるいはstatesmanを育てようとする国民はいるのでしょうか。

話がそれましたが、次の疑問です。ユーロと財政赤字の関係です。端的に言うならば、ユーロは財政再建を先送りにさせたと言えます。なぜなら、以前のブログで紹介した通り、ユーロは各国に何らかの経済的利益を享受させ、短期的には経済状況が改善されうるからです。ユーロという利益で財政問題と言う構造的な問題をごまかそうとしたわけですね。それを象徴する政治家の行動は、ドイツ政府との交渉の時に起こりました。具体的には、ギリシャ財政が破たんする可能性あった時、ギリシャの政治家は救済を検討するドイツに対して、危機による影響を政治的カードとして行使し、上記にあげた放漫財政を見逃すよう交渉したのです。流石にメルケルさんもあきれたようです(苦笑)

*このようなある制度・政策がある行動のインセンティブを変化せることを経済学ではmoral hazardと言います。実際的には、否定的な結果を招くことが多いので、道徳の劣化と言われていますが、東大の岩本先生曰く誤訳だそうです。非常に有益なロジックなので、いずれブログで説明したいと思います。

一方で、ユーロがなかったとすれば、財政赤字が改善される可能性が上がると言えなくもないでしょう。なぜなら、ギリシャ政府は緊迫する財政問題に対して何らかの行動をうつインセンティブを持つ、つまり正しくリスクを認識しそれにもとづいて適切な行動をとるようになるからです。ただユーロがなかったら、ギリシャがつぶれなかったかどうかは神のみぞ知る領域であるということは言及しておきます。

以上がギリシャ危機とそれに関係するユーロの説明です。

次は、これからのユーロのあるべき姿です。もう鋭い方はお気づきでしょう。ユーロの経済的利益を各国に享受させ、また財政破綻のリスク及び各国への影響を最小化させるためには、「財政規律の堅守」です。民主主義の構造的な問題はさておき、ユーロによる財政構造への悪影響に関しては、これで対応していくことがユーロと言う枠組おいては次善の策です。メディアで報道されていよう、財政赤字をGDPの数パーセントに抑えることを義務付けるようにユーロは動いています。個人的にもこれにまさる代替策はないと思います。

*今回のブログの根拠の一つとして本の著者・田中素香氏はこの財政規律の堅守について1年ぐらい前から指摘しています。まさに先見の明です。また、歴史的背景を述べるならば、過去においてユーロはユーロ拡大を足早に達成するために、財政規律に関しての取り決めがあったのにもかかわらず、ギリシャを始めとした各国の財政状況に目をつむり、また主要国である独仏でさえ、財政規律を破ってきたという歴史的事実があります。だから、PIIGSと呼ばれるような財政問題に対して、極めて問題を抱えた国がユーロに入れたわけです。

*余談となりますが、ノービスでユーロに関するこのような問題意識を取り入れた評価に値するモーションがでましたね。誰かは特定できませんが、モーション作成にかかわっていたT大のK藤くんが付箋だらけのユーロに関する入門書を呼んでいたと記憶しています苦笑

Asbest君「おいおい、結局ユーロは良いシステムなんじゃねーかよ。それじゃ、何でユーロ反対者はあんなにいるんだよ。デメリットもちゃんと説明しろよ。それとも分からないのかな?笑」

・・・・・冷静に行きましょう。

このような財政規律をコントロールするシステムを内包したユーロは、各国の国家主権を著しく侵害していると言えるでしょう。皆さまがクッキーカッターの一つとして、ご存じの通り、国家こそが国民の利益を追求できる最も適切な主体であり、それが国家主権の根拠となっていて、これは否定できないでしょう。これを言うだけでもそれなりにスタンスが構築できます。

ここまで分かれば、及第点ではありますが、はたして上のように各国の主権がいわば暴走し、自国及び他国にまで影響を及ぼしている中で、各国の主権を守る意義はどこにあるのでしょうか。

一つは、既に以前のブログで説明しましたが、5年や10年の景気循環を加味した財政運営は経済的に理に適っています。不景気にはより多くの財政出動、好景気には財政改善。

これだけでは味気ないので、付加価値を加えましょう。独仏などではなく、東欧や南欧諸国といったまだまだ経済途上国には、財政規律を破った経済政策が正当化されます。なぜなら、長期的にみるならば初期の経済投資が長期の発展につながる可能性があるからです。ディベート界にも膾炙しているケインズの乗数効果で説明できると思います。もちろん、自動的にそうなれば開発経済学者などの学者は苦労しないのですが、歴史的にもマーシャルプランの恩恵を受けたヨーロッパ先進国があとになって成功したのは、一時的な財政赤字というリスクを背負ったゆえです。

Asbest君「じゃー、財政破綻させない範囲内で財政規律を各国のGDPに合わせて柔軟に変えればよくね?先進国にはきつく、途上国にはゆるくみたいな、、、、」

極めてディベートが分かっている人のcleverな質問です。

先進国においても、国の政治的社会的利益を追求するために、ある種財政赤字を抱えた財政運営も正当化されます。例えば、北欧諸国が良い例でしょう。彼らは国策として、社会保障を充実させています。これから少子高齢化が進み、財政運営が厳しくなってくると思いますが、彼らに社会保障を諦めさせ、財政運営を健全化することが適切な判断でしょうか。おそらく、否でしょう。充実した社会保障によって、コミュニティや文化が形成され、一説にはそのことが経済活動を活性化させているとも言われています。その結果、他国からもうらやましがられる国へと成長してきたわけです。

このように、先進国や途上国に関わらず、財政規律を課すことは非常に国益を損なう可能性があります。

以上が、ユーロのこれからに関する論評です。はたして、皆さまはどのように思ったのでしょうか。またどうすればこれらの話を活かして、より磨かれた議論ができると考えたでしょうか。答えは皆さまの頭の中にあると思います。極めて論争の余地のあるモーションです。慎重に考えてみてください。

私見としては、国際連盟がその欠陥を克服して、安全保障に多大なる国際連合を設立した歴史があった通り、ユーロもその構造的欠陥を克服して、ユーロ圏内に繁栄をもたらすことを切に望んでいます。

最後に、弁明を。お気づきだとは思いますが、僕のブログは誤字脱字が散見されます。院生としては、恥ずかしい限りですが、時間の制約があってまともに見返せない(+K藤くんが急かす苦笑)ので、ご勘弁ください。内容に関しては、なるべく時間をかけてねっているつもりなので、参考にしていただければと思います。

石渡慧一 
国際基督教大学卒業、東京大学公共政策大学院修士1年。2009年度ICUDS部長。Australs 2009 ESLブレイク、 All-Asian 2008 EFLブレイク(なお、この年の北東アジア参加者の中で1位)、NEAO 2009 EFL ブレイク、NEAO 2010 ジャッジブレイク

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